黄色い衣装

まだ駆け出しだった頃、楽屋で恐ろしい話を聞いた。
黄色い衣装の話だ。

それはある新人の踊り手が共演する先輩の踊り手に、事前になんの挨拶もなく、踊る曲と着用する衣装の相談も報告もなしに、当日リハーサルに行った時、先輩の踊り手と衣装の色がかぶってしまったと言う話だった。黄色い衣装だ。フラメンコで黄色い衣装と言うのは珍しいし、その色が被る事はまずない。でも運が悪かった。

その新人の踊り手は先輩の踊り手に「あなた、違う衣装を持っていらっしゃい。」と、一言言われて急いで家に帰り、衣装を持ち替えて楽屋に戻ったが、家が遠かった為にリハーサルを出来ずに本番に臨んだそうだ。当然踊りは散々たるものだったとのこと、、、。

その話を聞いた時に私は速攻「えーーーー‼️酷い‼️怖いね〜、その踊り手。新人イジメじゃん‼️誰よ‼️それ?」と思ったのだが隣にいた友人とギタリストは「当たり前だよね。」とさらりと言った。

ヌメロと衣装はショーの要で、お客様に楽しんで頂くための重要なツールだ。そこを蔑ろにする新人はプロでは無い。と言う話を彼らはしていた。私は黙って聞いていたが、「その「先輩」とやらの踊り手は誰?」と恐るおそる聞いた。彼らは案の定、私の思惑を見抜いて彼女の名前を教えなかった。代わりにその新人の名を言った。
同業者として「先輩」を守り、「新人」をあっけなく売ったのだ。

厳しい世界なんだな、、、。と思った。

でももうそれは20年以上前の話だ。もう今は顔も知らない共演者に事前に挨拶をして、ヌメロと衣装の相談をする徳昌な踊り手はいない。また、教室の先生も生徒にそんな事は教えない。教えられた生徒も、かわいそうな事に自分だけそう言うことをやり続け、無神経な共演者に毎度、傷つけられ続けるハメに成る。

だが、事前の挨拶はプロとして必要な事だと思う。このような規律がなくなったことと、近年スペイン料理の店やタブラオがなくなって来たこととは関連があると私は思っている。

西野マユミ フラメンコ教室 CONTIGO

東十条と新八柱(みのり台)でフラメンコ教室を開いています。 講師は都内周辺で活躍する踊り手です。